GSユアサ×日本ゴア

GSユアサ日本ゴア

PROJECT

CROSS TALK

GSユアサ×日本ゴア

新時代を告げる
メンテナンス軽減への挑戦

〜開発チームが語る、
コラボレーションの軌跡〜

GSユアサと日本ゴアが共同で開発した新型バッテリー「ECO.R ENJ」。
触媒デバイスを組み込んだ「GRテック液栓」を採用することで、
圧倒的な減液抑制を実現しました。
また、この減液抑制はGSユアサ製EN規格バッテリー史上最高の長寿命をもたらしました。
その開発に携わった両社のプロジェクトメンバーが、
製品化に至るまでの経緯や開発秘話を振り返ります。

PROJECT MEMBER

株式会社GSユアサ自動車電池事業部技術部

GSユアサで主に自動車バッテリーの開発を行う部門。
「ECO.R ENJ」共同開発では製品構造の検討や試験の実施を担当。

  • 担当部長 堤 誉雄

    担当部長堤 誉雄

  • リーダー 山下 弘登

    リーダー山下 弘登

  • リーダー 関家 一樹

    リーダー関家 一樹

日本ゴア合同会社パフォーマンス・ソリューションズ・ディビジョン

機能性素材「ゴアテックス ファブリクス」でも知られる化学素材メーカー。
「ECO.R ENJ」で採用された新機構「GRテック液栓」に同社の技術が採用されている。

  • ニュープロダクトデベロップメント 小林 康太郎

    ニュープロダクトデベロップメント小林 康太郎

  • オートモーティブベンディンググローバル プロダクト マネージャー 麻生 昌之

    オートモーティブベンディング
    グローバル プロダクト マネージャー
    麻生 昌之

01

共同開発のきっかけ

業界では
「バッテリー液は減るのが当たり前」。
でも、本当にそうなんだろうか?

はじめに、今回の「ECO.R ENJ」を共同開発するに至ったそもそものきっかけについてお聞かせください。

小林

最初の接点は2015年のことです。電気化学分野に携わっていた私が自動車用バッテリーの改良に関心を持ち、バッテリーメーカーであるGSユアサさんにご意見をお聞きしたい、と訪ねていったのがきっかけでした。

麻生

液減りを抑制するというコンセプトは、そのときからアイデアの一つとしてあったんですよね。

小林

ええ。実は当時の私は、様々な市場を調査する中で、自動車用バッテリーに対して素朴な疑問を感じていました。なぜ液式の鉛蓄電池は、「液が減る」のが当たり前と思われているんだろうと。というのは、世の中には制御弁式(VRLA)電池というものもありますし、対策の手立てがないわけではないはずなんですよ。それなのに、なぜ自動車用バッテリーにはそういうものがないんだろう。それが単純に不思議だったんです。

共同開発のきっかけ

実際、産業用電池の分野では「ECO.R ENJ」と同様、触媒デバイスを取り付けて液減りを抑制するアプローチ自体は、以前から製品化されていました。

なぜ自動車用バッテリーには採用されてこなかったのでしょうか。

産業用電池の場合は、蓋の外側に触媒を取り付けられるのに対し、自動車用バッテリーは車両における搭載スペースの制約があって、そういう対処ができないわけです。一方、バッテリー内部に触媒を入れ込むとなると、電解液との接触を避けるという、われわれだけでは解決できない相当高いハードルがありました。

共同開発のきっかけ 共同開発のきっかけ

山下

私自身も長く技術部でバッテリー開発に携わってきましたが、もちろん液減りというテーマはこれまでも取り組んできた課題ではあるんです。ですが、乗用車用バッテリーとしては、すでに一定のレベルで解決された課題になっていました。それだけに、バッテリーメーカーではない日本ゴアさんならではの提案は盲点というか、重要な問題提起だったように思います。われわれとは違う角度から、この課題に踏み込んできてくれたのが日本ゴアさんでした。

関家

ええ。しかも今回の液減り抑制へのチャレンジは、バッテリーそのものとしての長寿命化への可能性をさらに高めることにもつながります。

小林

当時、世の中の注目はリチウムイオン電池に集まっている状況ではあったのですが、調べてみると、鉛電池の市場は今もなお成長しているんですね。これはおもしろい提案ができるのではないか、という狙いが一致して2018年から本格的に共同開発がスタートしました。

麻生

実はこの時点では自動車バッテリーに関して別の改良テーマもあって、触媒を使った減液抑制というテーマは「こういうこともできたらおもしろいですよね」というレベルだったんです。しかし、GSユアサさん側がこの触媒による減液抑制というテーマに非常に強い関心を持たれたこともあり、プロジェクトとしてもこのテーマに資源を集中して開発を進めていく方向へ舵を切りました。

02

開発のポイント

いかに触媒の性能を長持ちさせるか。
小さな「液栓」への
組み込み方法が焦点に。

小林

先ほど話に出ていた、産業用電池の触媒栓というのはかなり大きくて、握りこぶしぐらいのサイズがあるものなんです。当然、自動車のような入り組んだ部分には取り付けられないため、いかにコンパクトにするかというのが、最初の大きなハードルでした。

産業用電池で採用されている触媒栓とGRテック液栓
産業用電池で採用されている触媒栓とGRテック液栓の大きさ比較

結果、たどりついた答えが、新機構の「GRテック液栓」だったわけですね。

関家

そうです。ただ、最初からスムーズに最善の手段に行き着いたわけではありません。サイズの問題もありますが、もう一つ大きなハードルとして直面したのが触媒デバイスの寿命の問題でした。

小林

自動車用バッテリーの場合は、2年半~3年が寿命ですが、それよりも長い使用を想定しなければなりません。いかに長持ちさせるかという部分が最も苦心したポイントでした。これをクリアするような開発がなかなかうまくいかなくて、キャッチボールにかなりの時間をかけましたね。

従来の液栓(左)とGRテック液栓(右)
従来の液栓(左)とGRテック液栓(右)
液栓に組み込まれた触媒デバイス
液栓に組み込まれた触媒デバイス

どのように乗り越えられたのでしょうか。

関家

この触媒デバイスを見ていただきたいのですが、液栓に対してデバイスが垂直方向に取り付けられていますよね。開発プロセスにおいて、ここがブレイクスルーだったと思っています。

山下

ある段階までは、触媒デバイスは液栓に対して平行に接着させていたんです。しかしその取り付け方では何度やっても満足のいく結果が出ませんでした。日本ゴアさんの方で何度も試験をいただき、長い試行錯誤を重ねて、ようやく垂直にすることで性能と耐久性が大幅に上がるということが分かったんです。これは、日本ゴアさんから提案いただいた解決策なんです。

ECO.R ENJ

なぜ垂直に取り付けることで性能や耐久性が上がるのでしょうか。

麻生

触媒デバイスは充電による電気分解で発生した酸素・水素を再結合させる働きがありますが、再結合した水が触媒デバイスの表面に膜を張って、ガスの取入口をふさいでしまう。つまり、ガス交換性能が落ちてしまうんです。それを解決するには、デバイスに付着した水を落とせばいい。もともと撥水性のある素材ですから、物理的に90度に立てるのが最も効果があり、実際に触媒デバイスの寿命も改善されたということです。

小林

「横のもの縦をにする」というと、すごくシンプルなんですけど。なぜうまくいかないんだろうというトライアンドエラーを繰り返して、最終的なソリューションに行き着くには1年以上かかりましたね。

麻生

加えて、自動車には当然振動が発生しますので、触媒デバイスが外れ落ちてしまうことは避けねばなりません。垂直でしっかりと保持する液栓のデザインを提案し、それを量産可能な形で具現化されたのはGSユアサさん。両社がそれぞれに得意とする技術を出し合って融合できた部分ではないでしょうか。

03

「ECO.R ENJ」の発売にあたって

サステナブルな社会に貢献できる
ワクワク感。
新しい提案が世の中に届く瞬間の
ドキドキ感。

「ECO.R.ENJ」のリニューアルにあたっての率直な思いをお聞かせください。

麻生

最近、サステナビリティという点で、急速に世の中が変わってきているのを感じています。メーカーにとって製品の長寿命化によるサステナビリティが非常に重要なテーマであることは間違いありませんし、バッテリーのような消耗品であってもそれは同じだと思います。

その点で、このプロジェクトは非常に意味のある取り組みだったと。

麻生

ええ。当社には「Together, improving life」というブランドプロミスがあります。一緒に世の中をよくしていきましょう、という意味なのですが、これは今回の場合、もちろんGSユアサさんと日本ゴアという意味もありますし、もっというとエンドユーザーの皆様という見方もできます。この商品を使っていただくことで、例えば車がバッテリーのトラブルに遭遇する確率が下がる。また交換サイクルが長くなることでCO2 排出の削減にもつながる。そういう広がりも含めて世の中への貢献になるような仕事になれば…と今からワクワクしています。

麻生 昌之氏

「GRテック液栓」は、われわれバッテリーメーカーだけでは実現できなかった部品ですし、バッテリーに新しい視点で付加価値を与えた商品だと思います。GRテック液栓を取り入れたENJシリーズが市場でどれだけ受け入れてもらえるか、私としては非常に興味があります。

関家

同感です。あらためて考えてみると、鉛電池の歴史は長く、改良に改良を重ねて今日の姿があります。そういうものに対して、さらに新しい何かを加えるという仕事ができるのは、開発者としてなかなかない経験です。期待もありますし、正直ドキドキもしていますね。この商品が多くのお客さまの手元に届いて、快適や安心をお届けできるといいなと思います。

山下

私も設計する立場からすると、今回の「ECO.R ENJ」の開発成果は、今後の展開としてもバッテリーの液量を増やせたり、あるいは小型・軽量化といった方向への可能性を開くものでもあるように感じています。

小林

そうですね。触媒デバイス自体もまだまだ可能性があって、ほかのタイプの鉛電池にも適用していけるはずです。今後も世の中へ新しい提案のできる商品を一緒に開発していけるといいですね。

ECO.R.ENJ
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